はじめに
1999年に登場したトヨタのMR-Sは、当時としては非常に珍しい国産ミッドシップオープンスポーツカーでした。ホンダのS660が発売されるまで、軽量・後輪駆動・オープンボディという唯一無二の立ち位置で、多くのファンに支持されてきました。1トンを切る車重に、扱いやすい1ZZ-FEエンジンを搭載し、絶妙なバランスの足回りが特徴。まさに「風を切って走る」ことを楽しむためのピュアスポーツです。
AT限定免許でもマニュアル操作が楽しめるクラッチレスのシーケンシャルトランスミッション(S-MT)が搭載されているグレードもありました。F1マシンのようにパドルで操作できるこのギミックは、2000年代初頭としては画期的なものでした。しかし、登場から25年以上が経過した今、中古車としてMR-Sを選ぶなら、特有の故障傾向や経年劣化のリスクを知っておく必要があります。
目次
- はじめに
- 弱点①:1ZZエンジンの「オイル上がり」
- 弱点②:排気系トラブル(触媒の崩壊・エキマニの割れ)
- 弱点③:電動油圧パワーステアリングの故障
- 注意点①:S-MTのトラブルと寿命
- 注意点②:ソフトトップの経年劣化
- 経年劣化によるその他の定番トラブル
- 中古購入前に確認したいポイント
- まとめ
弱点①:1ZZエンジンの「オイル上がり」
MR-Sに搭載される1ZZ-FEエンジンは、トヨタの量産型ユニットとして信頼性も高いとされていますが、10万km超えの個体において「オイル上がり」の症状が見られることがあります。これはピストンリングが摩耗することで、エンジンオイルが燃焼室に入り込み、マフラーから白煙が出る、オイルが異常に減る、といった問題を引き起こします。
また、燃焼したオイルは排気系の触媒を傷める原因となり、さらなる不調を誘発することも。特にMR-Sはエンジンルームが狭く、整備性があまり良くないため、放置すれば高額修理になることもあります。
オイル上がりが疑われる場合には、対策品のピストンリングへの交換や、エンジンのオーバーホールが必要になることも。
弱点②:排気系トラブル(触媒の崩壊・エキマニの割れ)
MR-S特有の問題として知られているのが、排気系のトラブルです。特にエキゾーストマニホールド内にある触媒が崩れ落ちるという事例は数多く報告されています。崩れた触媒が排気管内を塞ぐことで排圧が上昇し、エンジンの吹けが悪くなる、アイドリングが不安定になる、最悪エンジンブローに至るといった症状が発生します。
さらに、エキマニ自体も熱や振動による金属疲労で割れることがあり、排気漏れや異音の原因になります。中古車として購入する際は、これらの症状が出ていないかを確認することが非常に重要です。
現在ではアフターマーケットのスポーツキャタライザーや強化エキマニも多数販売されているため、リフレッシュやチューニングの一環として対策品に交換してしまうのも有効な手段でしょう。
弱点③:電動油圧パワーステアリングの故障
MR-Sは珍しい方式である電動油圧パワーステアリングを採用しています。これは電動モーターで油圧を発生させる方式で、軽快なステアフィールを実現しつつ、従来の油圧式より燃費にも貢献する設計です。しかしながら、この複雑な構造がトラブルの原因になることも少なくありません。
特に多いのが、電動ポンプの故障や油圧ホースからのオイル漏れ。これらのトラブルが発生すると、ハンドルが重くなったり異音が出たりするだけでなく、最悪ポンプやラックの交換が必要になり、高額な修理費が発生します。
また、ステアリングを限界まで切る「末切り」を頻繁に行うと、油圧系に過負荷がかかり故障を招く可能性があるため、日常的な操作でも注意が必要です。
注意点①:S-MTのトラブルと寿命
MR-Sの大きなセールスポイントであるS-MT(シーケンシャルマニュアルトランスミッション)は、実はある程度の走行距離を超えると、高確率で故障が発生するという弱点も抱えています。特に15万km前後でのトラブルが多く、アクチュエータのフルード漏れ、センサーの不良、シフト不能などが主な症状です。
中古市場においても、S-MT車は走行距離が多い個体ほどリスクが高くなります。購入前にはシフト動作が正常か、異音がないか、リコール対策が行われているかを必ず確認しましょう。なお、どうしても不安な場合は、素直にMTを選ぶというのも選択肢の一つです。MT車は構造がシンプルなため、故障が少なく維持もしやすい傾向があります。
注意点②:ソフトトップの経年劣化
オープンカーの宿命とも言えるのが、ソフトトップの劣化です。紫外線や雨風にさらされる幌は、どうしても経年で痛みやすく、裂け目や破れが生じている車両も珍しくありません。また、リアスクリーン(後方の透明部分)が曇って視認性が落ちている個体も多いです。
幌の交換は純正品で10万円以上、社外品でも工賃込みで5~8万円程度は見ておく必要があります。破れがあるか、雨漏りがないか、開閉がスムーズかなど、現車確認の際には入念にチェックしてください。
経年劣化によるその他の定番トラブル
MR-Sは設計こそシンプルですが、経年による故障は避けられません。以下のようなトラブルは「定番」と言えるレベルで、一定の覚悟が必要です。
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エアコンの冷えが悪い(ガス抜け・コンプレッサー故障)
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オイル漏れ(ヘッドカバー、クランクシールなど)
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ラジエータの水漏れ(樹脂部の劣化)
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オルタネーターの不良
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パワーウインドウの故障
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トランスミッションのベアリング摩耗
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シフトリンクのブッシュ切れ
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レリーズベアリングからの異音
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ホイールベアリングの異音
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パーキングブレーキワイヤーの固着
特にエンジンルームが狭いため、修理に手間がかかり、工賃が高くなる傾向があることも念頭に置いておきましょう。
中古購入前に確認したいポイント
MR-Sを安心して購入するためには、以下の点をチェックしましょう。
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整備記録簿が残っているか
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白煙、異音、吹けの悪さなど、エンジン不調の兆候がないか
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S-MTの動作確認とリコール履歴のチェック
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触媒やエキマニの交換歴があるか
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幌の破れ・開閉不良がないか
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電動パワステの異音・重さがないか
特に、後期型のS-MT車は改善されている点も多いため、選ぶなら後期型がおすすめです。
画像出典:Wikimedia
まとめ
トヨタMR-Sは、今や貴重な国産ミッドシップスポーツカーです。軽量でよく曲がり、風を感じながら走れるその楽しさは、今の新型車にはない「人とクルマの一体感」を教えてくれます。
ただし、25年選手であることは忘れてはいけません。故障リスクや維持費はある程度覚悟のうえで購入すべきでしょう。しかし、しっかりと整備された個体を選び、適切に手をかけてあげれば、MR-Sはあなたにとってかけがえのないパートナーになってくれるはずです。